校長挨拶
一人ひとりを大切に
――あの時も、いまも、これからも
2025年8月上旬、私はフランス研修旅行「雙葉の源流をたどる旅」に参加しました。ニコラ・バレ神父様や、雙葉を創立された幼きイエス会のシスター方のゆかりの場所を訪ねました。私は、フランスで宗教は微妙な立ち位置にある、ということを実感しました。私は公式の場では、カトリック司祭の正装であるローマンカラーシャツを着用しました。ところが、カトリック司祭の服装の私に対し、相手は複雑な表情を示しました。 2024年7月26日(日本時間)にパリオリンピックの開会式で、フランス共和国のアイデンティティが強烈にアピールされました。この国はフランス革命(1789年~)で二つの勢力に勝利して建国したことが表現されました。一つはブルボン(ルイ)王朝。もう一つの勢力は、絶対王制と結びつき権力化したフランスの教会組織です。フランスの公共空間で、宗教が微妙な立場に置かれているのは、建国の歴史に由来します。 フランス国内で見捨てられた子どもたちの世話をしていた女性たちの会-幼きイエス会も革命政府の教会弾圧によって、消滅の危機に瀕します。 革命の申し子、ナポレオン・ボナパルトが台頭し、征服の手が周囲の国々にも伸びます。ヨーロッパ全域に弱者が虐げられる惨劇が生まれ、状況はさらに厳しくなります。 戦争の最大の犠牲者は女性・子ども・社会的弱者です。消滅の危機に直面していた幼きイエス会のシスター方は、そこから立ち上がります。一人ひとりの子どもを大切に育てる働きが再び始まります。雙葉で学ぶ皆さまがたびたび耳にする「一人ひとりを大切に」という言葉は、耳あたりの良い美辞麗句などではありません。一人ひとりの存在がないがしろにされる悲惨極まる時代に直面し、自らも消えていこうとしていた、幼きイエス会のお働きからほとばしった決断のお言葉でした。 ウクライナやガザ地区、そしてイランをはじめ世界中で子どもたちが、悲惨と絶望のうちに倒れています。「一人ひとりを大切に!」という叫びは、今もまた響いています。
雙葉中学校・高等学校 校長 萱場 基

